今自分がやっていることや、今自分がいる場所は必然であり、こうするしかなかったように思えるのだが、ただ、例えばがあるのなら。
もしも、もう一つの道を選べるものであれば、私は二十歳くらいに戻って東京という街に住み付き、名曲喫茶ライオンで生計をたてるような暮らしに強く心を惹かれる。非日常を日常に変え毎日ここで暮らすようなことを、今恐ろしく熱望している。
やり直せるのなら、人生をやり直せるのなら。今大事な友人の葬儀が行われているこの時間、行けないのなら私らしく一番私らしい時間を過ごそうと思いここに来た。
渋谷という巨大大人のおもちゃ箱のような街にある道玄坂という道を上って右に曲がって少し歩くと名曲喫茶ライオンがある。
東京って不思議な街だ。なんでもありにしてしまう、そんなめちゃめちゃな街だと思うが強い磁場があるのだろうか?多分私には感じられない吸引力なのかもしれない。
店内は一階と二階と三階があるらしいが、今は三階は閉じている。オープン11時を少し過ぎた時間に入ったのだが、一階には常連と思われる年配のおじさま達が五人程座っていた。交わるのもいいが、今日は一人になりたいので二階へ。座席数字でいくと60くらいありのだろうか。ぎっしりと椅子とテーブルが並んでいた。どの椅子も赤いベルベットで年季が入った座り心地が気持ちいい。
店内の真ん中に巨大なスピーカーが置いてある。クラシック専用の木で出来たスピーカーだ。そこからは耐えずクラシックが流れている。何十年もの間。おそらく、ずうっと。1962年創業なのでことしで48年目。私には計り知れない歴史なのだが、そういう中に少しでも入れたことへの幸福感に満ちている。
私の人生はこれからもまだ長い予定ではいるが、こういう場所に出来るだけ身を置いていきたいと思っている。
ふじいさん、向こうで話したい話が沢山あるよ。またね。とりあえず、バイバイ。
izumi